魂を押し流す紅の奔流
欠片も自由にならぬ四肢
貴女は其れを 恋と呼び
私は其れを 死と呼んだ
最近、千鶴はやけに石田に絡む。
彼女に言わせると、
「みちるが懐いてるだけでもムカつくのに、マイスウィートなヒメが近頃石田のバカに、頻繁に声をかけるのが許せないのよ!」
だそうだ。
「アンタねぇ、ちょっとヒメに声かけられたからって、いい気になってんじゃないわよ」
「……別に、いい気になってなどいないが」
「ハッ。内心ではヒメのセクシーダイナマイトボディに涎垂らしてるくせに。このエロメガネ」
「な…っ!? 失礼にも程があるぞ、君!」
朝から放課後までこの調子だ。
千鶴も石田も、ハタから見れば似たもの同士なのだが、本人達に言うと、必死で否定するんだろうなぁ、二人とも。
「飽きずによくやるわね、千鶴も」
「鈴ちゃぁん、そんなこと言ってないで止めてよぅ」
みちるが泣きそうな顔で言う。
面白いから止めたくないなぁ、という感想を飲み込んで、私はみちるに苦笑してみせた。
「でもほら、千鶴が男とあんなに長時間会話することって、滅多にないし」
基本的に、男性一般は眼中にないから、会話が成り立たないのよね。
「あれは、会話じゃなくて、ケンカだよぉ」
そうとも言うわね。
言い合いを続ける二人と、眉を寄せたみちるを等分に見比べると、意識の隅にストンと落ちてくるものがあった。
あ、そうか。
「千鶴が羨ましい?」
ちょっと意地悪な気分で尋ねると、みちるは耳まで真っ赤にして首を振った。
「そ、そんなんじゃないもんっ!」
「本当に?」
「う……………ホントは……ちょっとだけ」
俯いて、私の袖を掴んで言う。
これは確かに可愛いな。
千鶴が、日頃みちるのことを、可愛い可愛いと言う意味が判った気がする。
みちるはしばらく千鶴と石田の姿を眺めていたが、やがてぽつりと呟いた。
「いいなぁ、千鶴ちゃん雨竜くんといっぱい話せて」
なるほどねぇ。
私や千鶴にはない素直さだもんなぁ。
しかし、千鶴もみちるも、石田のどこがいいのかね。
まぁ、千鶴の場合は、全く自覚がなさそうだけど。
「私のヒメとみちるに、手を出すのはやめて欲しいものだわっ」
「だから!」
あ。
「だから、僕は井上さんにも小川さんにも、手を出す気もなければ興味もない! そういう話は不愉快だ!!」
隣でみちるが、身動ぎもせずに石田の姿を見つめている。
千鶴も一瞬、しまったという顔をした。
袖を掴む力が強くなって―――離れた。
「……そろそろ、帰んなきゃ」
鞄を手に教室を駆け出す。
慌てて後を追い、踊り場でみちるを捕まえる。
「えへへ……言われちゃった」
眉を寄せて笑う。
「告白しなくて、良かったぁ」
うわ。
涙を堪える姿が、可愛すぎるほどに健気だわ。
「みちる!!」
「え!? な、なに?」
肩を掴んで大声で言うと、みちるがびっくりして身を竦めた。
「失恋同盟、作ろうか」
しばらく驚いたように私の顔を眺めた後、小さく噴き出す。
「やだぁ、カッコ悪いよぅ……って、え? 鈴ちゃんも!?」
自分のことを忘れたかのように、私の瞳を見上げて心配そうに言う。
「だってだって、この前楽しそうに話してたじゃない」
「あー、その時にさりげなく訊いたんだけどね」
爽やかに笑って、「僕、やっぱり年上じゃないとダメなんだよね」と言われてしまったのよ。
「うそぉ。鈴ちゃん大人っぽいから、大丈夫だと思ったのにぃ」
や、見た目だけ大人びてても、経験と経済力は伴なってないからね……。
苦笑してみせると、みちるの目からポロポロと涙が零れた。
自分の時は必死で我慢してたのに、何で人の時には簡単に泣くかね、この子は。
「よしよし」
小柄なみちるの頭を撫でる。みちるは泣きながら、照れたように笑った。
「悔しいけど、お似合いだよね。千鶴ちゃんと雨竜くん」
「………そうか?」
限りなく不毛だと思うけど。
「よぉし! 私も雨竜くんよりカッコよくて優しい人を探すぞ!」
「日本男性の80%くらいは、その条件に合致している気がする」
もっと理想は高く持った方がいいぞ。
―――てか、それは私もか。
お互い、男を見る目がないねェ。
「もうしばらく恋愛はいいや」
私がそう言うと、みちるは手の甲でごしごしと目元を擦って、頷いた。
「うん。恋より楽しいこと、いっぱいあるしね」
「そーね。少なくても、みちる見てると退屈しないし」
「もぉ!! 鈴ちゃんってば!」
頬を脹らませて、怒るそぶりをする。
あっという間に表情が変わり、全くもって退屈しない。
しばらくは、こんな風に友達と、馬鹿なこと言い合って、騒いで過ごそう。
まだまだ、恋してる暇はなさそうだ。
え――――と……。
千×雨三部作の第一作です。
国枝鈴視点です。メインはみちるです……千×雨…? あれ…?
てか、実はこっそり別カプも妄想してたりして。しかも既に失恋してたりして。
何だかイマイチな出来ですが、リハビリ中ってことで勘弁してください。
てか、自分で書いててなんですが、みちるの口調が一定しません。
原作でも、みちる眼中外でした。雨×みちとか聞いて、誰だっけソレ、とか思ってました。
何でかなー…織姫は可愛く思えるんだけどなー。
2003/11
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