パステルエナメル

   踊れ 踊れ
   偽りの腕に 与えられた翼を纏って
   この生命 尽きるまで

   踊れ 踊れ
   脈打たぬ躯に 創られた魂を宿して
   この生命 尽きるとも

   生も死も 君の掌の上


 深夜、忍ぶようにして訪れた局の研究室には、見慣れた不恰好な背中だけがあった。
「こんな時間まで何してるのよ、化物」
「お前こそ何の用だ、偽物」
 振り向きもせずに言い返す。相変わらずの甲高い声。

「お前に逢いに来たに決まっているでしょう」
 そう言うと、ようやく鵯州は私に向き直った。
 キュルキュルと音を立てて、左目を格納する。
「人形風情が、人様をからかうんじゃねェよ。全く」
 困ったような笑みを浮かべる。
 私は、畳の上に転がった製作途中の義骸を避けて腰を下ろした。
 私と同じ、創り物の躯。いつかはここに、私と同じ創り物の魂が篭められるのだろうか。
「お前の見た目は、到底ヒトとは思えないけどねぇ」
 私の言葉に、忌々しげに舌打ちする。
「失礼な女だな。ネム様はあんなに慎ましやかな美人なのによ。同じ局長の作品とは
思えないぜ」
「私とネムとでは、製作意図が違うんだから、仕方ないでしょう。あの子と違って、私には
戦闘能力は無いに等しいし」
 マユリ様の後ろ盾で、辛うじて十二番隊に名を連ねてはいるものの、自分が戦闘に
向いているとは思えない。
「辞めちまえよ、死神なんか。どうせすぐ死んじまうのがオチだ」
「あら、でも代替が利く躯ってのは、意外と重宝するのよ」
 例え壊れても、即座に修理して次の任務地に赴くことができる。
 それはそれで、便利なものなのだ。
「死ぬために創られたんじゃねェだろ」
 鵯州の声が熱を帯びる。
 人形のことを語る時、彼はいつも自制が効かなくなる。
「お前は本当に義骸が好きだねぇ、鵯州」
 揶揄するように言うと、鵯州は慌てて口を閉ざした。

 元より生きていない人形が、死ぬ筈が無いでしょう。
 まるで人のように、生きるだの死ぬだの言うのはやめて。
 研究室の窓から差し込む月の光に、つと手を翳す。

「どう、綺麗でしょう」
 秀でた戦闘能力も持たず、私はただ、美しく創られたのだ。
 月光の下で咲く花のように、ただ美しく在れ、と。
 仄かな光を浴びて、象牙色に輝く肌。
「この肌の色には、マユリ様も満足してくださっているのよ」
 指先で招くと、鵯州は渋々立ち上がった。
 二、三歩進んで立ち止まる。僅かに腕の届かぬ距離。
 笑んだまま、私はそっと身を横たえた。
 打ち遣られたままの、冷えた人形の躯に腕を重ねる。
「お前のような奇形の輩でさえ人なのに、どうして私は、人にはなれないのかしらね」
 上目遣いに鵯州を見つめたまま、人形の首筋に唇を這わす。
 何度繰り返しても、熱を持たぬ接吻。
「ねぇ、お前のように醜い姿でも、生きているというのは良いものなのかしら」
「言葉に気を付けろよ。局長の代わりに、俺がお前を解体してやってもいいんだぜ」
 怒らせようと選んだ私の言葉に、素直に反応を返す様が愛おしい。
「本物になれないのだったら、いっそ解体されてしまった方がいいわ」
「本物になりたいのか」
 戸惑ったような問いに、わざと答えずに視線を逸らす。
「お前は、そのままでいいよ」
 人形の髪を梳く。魂を持たぬ躯なら、誰かが満たしてくれるのを待つだけでいいのに。
「だってお前、本物になったら俺に興味なんて持たなくなるだろ……今だって、俺に構う
のは、局長に『そう創られた』ためかも知れないのに」
 いつになく弱い声に目を上げると、月光の中、鵯州が消え入りそうな風情で立っていた。
 知らず、私の頬を笑みが彩る。

 躯を反転させて仰向けになる。
 長い黒髪が、畳の上に拡がった。
「おいで」
 異形の恋人に腕を差し伸べる。
「私の想いまでも偽物かどうか、その身で試して見るがいい」
 私の中のたった一つの本物を、自らで味わうがいい。

 醜くて醜くて愛しい、私だけのお前。


全くもって需要の欠片もなさそうな、鵯州ドリーム。
既にドリームとして成り立ってないですな。名前変換要素もないし。
単なるオリキャラ小説か。
一応ヒロイン(?)はまゆりん製作の義骸&義魂です。
ネムとはえらい違いですが。

何て言うか、アレですな。フリークスとかノスフェラトゥとかイゴールとか、そんな雰囲気。
いっそ、お嬢様とせむしの執事の恋物語、みたいな感じに
脳内変換させて読んだら、もうちょっと汎用性があるかも知れない。

2004/09