のどあめ
其れは 蒼褪めた氷の様に 熱く
其れは 突き立てた針の様に 優しく
たった 一人で
「剣ちゃぁん」
満面の笑みで、手を振りながら駆け寄る三番隊長に、剣八はこれ以上
ないほどの渋面を向けた。
「いややなぁ、剣ちゃんってば。恐い顔して」
こわいこわい、と大仰に肩をすくめるギンに、その呼び方はやめろ、と
低い声で言う。
「だって、やちるちゃんが言うてたやんか。うちの剣ちゃん剣ちゃん、って」
「馬鹿かお前は。あのやちると、いい年した大人を同列に並べるんじゃねぇ」
「剣ちゃん、それは差別やで」
尚も言いつのるギンの言葉を遮るように、可愛らしい少女の声がかかる。
「剣ちゃ――ん」
勢いよく走ってきた緋色の髪が、剣八の手前で不意に止まる。
「あれっ、ギンちゃん」
「やちるちゃん、ボクのこと名前で呼んでくれるようになったんやね」
「だって、ギンちゃんとこの幸薄そうな副隊長が、『うちの隊長の人格を疑わ
れるような呼び方やめてください』って泣くんだもん」
やちるの言葉に、イヅルの姿を思い浮かべたのか、隊長二人が苦笑する。
「やちる、何か用があったんじゃないのか」
「あ! そうだった。あのね、卯ノ花さんが剣ちゃんのこと探してたよ」
「じゃあ四番隊舎に向かうから、お前先に行って伝えておいてくれ」
「うん、わかった」
駆け出した小柄な体が、数歩進んだところで止まる。
やちるは何やら袂を探っていたが、やがて右手に何かを握って、ギンの元へ
戻った。
「ギンちゃん、これあげるね」
手を出したギンに、小さな包みを渡す。
「さっき卯ノ花さんに飴もらったの」
「おおきに」
微笑むギンを見て、再び踵を返して駆け出す。
その姿が見えなくなると、ギンは剣八に向き直った。
「ええ子やなー、やちるちゃん。いっつもボクにお菓子くれるんやで」
「お前がよっぽど飢えた顔してるんだろ」
「あんな小さな子の母性本能くすぐっちゃうなんて、ボクってほんま、罪な男
やなぁ」
上機嫌なギンに、剣八は呆れたような目を向けた。
「言っとくが、あいつ虚にも『あんな胸に穴あいてて、お腹空いてるだろうなぁ』って
言ってたぞ」
お前は虚と同じ扱いってことだ、と告げて薄く笑う。
「ちぇ。いじわるやなぁ、剣ちゃんは」
ギンは小さな包みを開いて、薄桃色の飴玉を口に放り込んだ。
「死神になって隊長になって、ええもん食べられるようになっても、あの子には
ボクは、腹減らした子供に見えるんかな」
誰にともなく、呟くように言う。
いつまでも、飢え渇いたあの日のまま。
凝固した桃の果汁を舌先で転がして、ギンはその甘さに小さく笑った。
ギンはあの関西弁さえなければ、ネタの宝庫なのになぁ。
関西弁がよく判らないので、どうにも書くのを
ためらってしまいます。
難しいです。
2004/11
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