きょうだい

   一番欲しいものは 決して手に入らないから
   二番目ばかりを泣いて欲しがる 我侭な子供たち

 来るはずがないと思っていた。
 こんな遠くて危険な場所へ。
 ほんの数ヶ月一緒にいただけの、取るに足りない相手のためになど。
 それでも、心のどこかでは。
 必ず来ると思っていた。

「馬鹿者! 何故助けになど来たのだっ」
 初めに口を衝いて出たのは、感謝の言葉でも労いでもなく。
「こんなに傷ついて、死にそうになって……来るなと言ったではないか!」
 立ち上がる気力もなく、倒れたまま私を見上げる少年に、罵倒の言葉を投げつける。
 私などのために、こんなにぼろぼろになるなんて、どうかしている。

 そんな価値が、私にあるはずもないのに。

「何だとテメェ、人がせっかく助けにきてやったってのに」
「誰も頼んでなどいないではないか。そういうのを余計なお節介と言うのだ」
 懸命に涙を堪えながら。
「何という愚かな奴だ……っ」
 一護は真っ直ぐに私を見上げて言う。
「うるせぇ。好きな奴を助けるのに、理由なんているかよ」

 一護の言葉が、静かに私を刺し貫く。
 私には、好きになる価値などないのに。
「馬鹿を言うな。恋だの愛だの、死神相手に通用するはずがないだろう」
「あー、だからさ……」
 視線を逸らして眉根を寄せて、僅かに頬を染める。見慣れた照れ笑い。
「俺達には、恋とか愛とかより、必要なものがあんだろ、ってコト」

 

 そして彼は、私を黒崎家へと連れて行った。

「コイツ、朽木ルキア」
 父と二人の妹を前にして、何とか説明を試みる一護。
 全くの一般人を前に、死神だの尸魂界だのと言って、すんなり受け入れられるとは思え
ないのだが。
「えー、なになに、お兄ちゃんの彼女なの!?」
「だから、違うって言ってんだろ!!」
「なかなかやるではないか一護! さっそく母さんに報告しなくてはっ」
「人の話を聞け、クソ親父! いい加減そのポスターはがせっての!」
 錯綜する会話の中、一人黒髪の少女だけが、静かに私を眺めていた。
 突然現れた奴を、警戒するなという方が無理だろう。しかも、私を紹介する単語は、
どこをどう取っても非常識なものでしかないのだから。
 そんなことを考えながら夏梨と呼ばれた少女に目を遣ると、彼女は不意に、ふわりと
微笑んだ。
 照れたように一度目を伏せて、静かに歩み寄る姿が、不思議と一護に重なる。

「あのさ」
「はい?」
「あたしあのバカの妹で、黒崎夏梨。よろしく」
 そして差し伸べられた右手。
 戸惑いながらもその手を握る。
「悪いね、一兄が女の子連れてきたってんで、みんなはしゃいじゃってさ」
 視線の先では、一護が父にスリーパーホールドを喰らわされているようなのだが、
あれははしゃいでいるのだろうか……?
「あの……私と黒崎くんは、本当にただのお友達ですから」
「死神のね」
 さらりと言って、失神寸前の兄に目を遣る。
「いいんじゃない? そういう知り合いがいても。とりあえず、家がないならウチに住み
なよ。多分みんなそのつもりだと思うし」

 何と返していいのか判らず、一護を眺める私に、夏梨が尚も語りかける。
「一兄はさ、恋愛とか疎いから。そういう関係になりたいときは、はっきり言った方がいい
と思うよ。余計なことだけど」
「でも永久にそんな気分にはならないと思いますわ」
「まーね。今のルキアさんに必要なのって、そういう恋愛とは違うものなんだろうし」
 一護と同じことを、よく似た表情で言う。
 いったい何が、私に必要だと言うのか。判らないまま、瞬きを繰り返す。

「夏梨ちゃーん」
 とたたた……と足音を響かせて、もう一人の妹が走り寄る。
「あたしの部屋空けることにしたから、夏梨ちゃんの部屋に荷物運んじゃっていい?」
「いいけど、あの変なヌイグルミとかは隅に置いてよね」
「わかってるよぅ。……あ、あたし黒崎遊子です。兄をよろしくお願いします!」
 そう言って勢い良く頭を下げる。
 そのまま踵を返して、部屋を出て行く後姿を眺めて、私はしばし言葉を失っていた。

「あの……今のはどういう……?」
「だって、今空いてる部屋って病室しかないんだもん」
 答えにならない言葉を発する夏梨。
「だから、今ユズが使ってる部屋が、ルキアさんの部屋になるから」
 ごく当たり前のことのように、言い放つその言葉が。
 私の心を柔らかく刺すようで。

 いつしか私の頬を伝う、温かい涙。

「あ、コラ、夏梨! 何でルキア泣かしてるんだよ!?」
「えぇぇっ!? あたし何にもしてないよっ」
「おーおー、さっそく見事な小姑ぶりを発揮ですか。母さん、ウチの子供たちは立派に
成長してますよー」

 この中に、私は入っていけるだろうか。
 入ることを許されるのだろうか。
 俯きそうになる私に、彼が手を差し伸べる。
「ホラ、来いよ。涙くらい拭けっての」
 いつも通りの、照れたような顔で。


―――この日、私たちは「家族」になった。


えーと………。
勢いで書き上がったイチルキ(?)です。
なんか、最終回あたりの雰囲気なんですが。ルキア奪還後を想定。
実は主人公書いたの初めてだったりする。
ルキアの話し方よく判らんです……。

そんなわけで、私の中の二人はこんなイメージ。

2004/07