真昼の月
咲き誇れば花
死ねば獣
きっと私は、月に恋をしたのだ。
月に焦がれて、太陽を羨む。
影にもなれず
蝶にもなれず
塔の上から跳んだなら、いつか貴女に届くだろうか。
「本匠さん」
背中に投げつけられた声は、振り向かずとも判る相手のもので、それが何だか腹立たしい。
さっきまで私一人のものだった屋上からの風景に別れを告げて、金網から手を離して振り返る。
視線の先には、一人の男。
「何で石田がここに居るのよ」
上出来なまでに不機嫌な声。
「それはこっちのセリフだよ。ようやくゆっくりと一人の時間が過ごせると思って来たのに」
応える声にも、愛想や温度が欠落している。
「お生憎様だけど、先着順よ。他をあたってちょうだい」
先を越したことがほんの少し嬉しくて、口元に笑みが浮かぶ。
石田が悔しがればいい。
そう思ったけれど、彼は私を見つめたまま動かない。
「何よ。まだ何か用?」
「いや、こんなところで何をしていたのかと思って」
「……嫉妬」
呟くと、眉根を寄せて怪訝な顔をする。
「嫉妬してたのよ。太陽に」
背中に熱を感じながら、半ば自棄になって言い放つ。石田は一瞬表情を無くして、私の隣に歩み
寄った。
金網に手をかけて校庭を見下ろす。泣き笑いめいた顔。
「驚いた……僕の他にもそんなことする人がいたんだ」
視線を逸らしたまま、呟くように。
数秒の沈黙の後、石田はゆっくりと息を吐くと、隣に立つ私に向き直った。
向かい合ったまま、どちらも言葉を発しない。
沈黙に耐え切れなくなったのは、私の方だった。冗談めかした口調で、場の雰囲気を乱そうと
意識しながら。
「やぁね、真面目な顔して。飛び降りるかと思った?」
「いや、そうじゃなくて……飛ぶのかと思った」
「何ソレ。同じことでしょ」
目を細めて馬鹿にしたように言うと、石田は小さく頭を振った。
「違うよ。同じじゃない」
凛とした声で言う。
「こういうことを言うと、また君にはカッコつけてるとか、気持ち悪いとか言われるんだろうけど」
メガネのブリッジを手で支えて、表情を隠すように俯きながら。
「泣きたい時には、泣けばいいと思うよ」
不意に言葉を失う。彼は俯いたまま視線を上げない。
何て卑怯な男なんだろう。
泣きそうなのは、石田の方なのに。
ほんの、一瞬だけ。
レンズ越しの世界が揺らぐ。
大きく瞬きをして、私は石田に気付かれないように呼吸を繰り返した。
「馬鹿ね」
石田の顎を、両手で包み込んで上向かせる。
大丈夫。もう大丈夫だ。
戸惑ったような石田の視線を、不敵な笑みで受け止めて。
「涙は女の武器なんだから、もったいなくてあんたになんか見せられないわよ」
わざと強引にキスをする。ガラスのぶつかる音が小さく響く。
それはまるで、心の揺れる音のようで。
「女を口説くなら、次はもっと気の利いたセリフを用意して来なさいよね」
メガネの弦を指で押さえて、彼が小さく呟いた言葉に気付かぬふりをして、私は屋上を後にした。
何だか当初の目論見とは微妙に違う流れになった千鶴×雨竜。
これは一体いつ頃の話なんだろう……我ながらよく判りません。
夏休み前かなぁ。SS53「壊れた時計」より若干前かと。
てことは、千鶴×雨竜第2.5話、ってことになるのかしら。
あまりにも無計画な一作。
織姫一色な千鶴の意識に、雨竜が侵入していく過程を書きたいなぁ……。
毎回挫折しまくりですが。
2004/08
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