ひとでなしの恋
黒き翼は ただ 天を撃つために
奪われたり、投げ捨てたり。ここへ来るまでに随分多くのものを失くしてきたけれど 振り返ってみると、どれも本当に大切なものではなかった気がする。 生きていくのに必要なものは、実はそんなに多くはない。 きっとキミでさえも、亡くしてしまえばすぐに諦めがつくんだろう。 そんなことを考えながら、横で眠る栗色の髪に目を遣る。 「あんまり無防備やと、寝首をかかれるで」 囁くように言うと、乱菊はうっすらと目を開けて、口の端を笑みの形に歪めた。 綺麗な顔だ。極上の女にしか似合わない表情を、ごく当たり前のようにボクに向ける。 「やってみなさいよ。返り討ちにしてやるから」 いいね。挑発的な声音に身震いするほどだ。
本当にそうならいい。 本当にキミが、ボクの息の根を止めてくれれば。 幼い頃に出逢って、互いに傷を舐めあって生きてきた。 気が付けばいつも隣にいるキミに、依存してしまえば楽なんだろうな。 きっとキミは、母親のようにボクを護ってくれる。 母親ってどんなもんなのか、知らないけど。 「何が可笑しいのよ」 知らず笑みを漏らしていたボクに、乱菊が不審気な目を向ける。 「綺麗やな、と思って」 「知ってるわよ。そんなこと」 吐き捨てるように言うと、ボクに背を向ける。 そんな風に、褒め言葉に慣れてないところも、可愛いと思うてるんよ。 口に出したら怒るだろうから、言わないけど。
「好きやで」 「それも知ってる」 囁いたら、背を向けたまま不機嫌な声が返ってきた。 ほんま、抱きしめたいほど好きなんよ。 言おうとして気付く。違うか。ただ抱きしめたいのと違う。 「縛りつけて切り裂きたいくらい、好きやで」 言葉にすると、何や物騒やな。 「そういうの、変態って言うのよ」 「うん。そんで乱菊が、ボクの足に縋って泣いてくれたらええのに」 あなたが好きです、って言ってくれたらいい。 ごめんなさい、許してください、あなただけが好きです、って泣いてくれたらいいのに。 「莫迦ね。そんなことするわけないじゃない」 呆れたような声。ボクもキミが誰かに膝を折るところなんて想像つかん。 「駄目かぁ。しゃーない、諦めよ」 「判ればよろしい」 どんな顔してるのか知りたいけど、向けられた背中からは何も読み取れない。 何の話をしたら、こっちを向いてくれるんやろか。
「ルキアちゃんに会うた?」 「あぁ。帰って来てるんだっけ、あの子」 振り向きもせずに言われたら、驚かせたくなるやんか。 「処刑されるらしいで」 「嘘!?」 予想通りに勢いよく振り向くから、ボクは嬉しくて笑ってしまう。 「何で? あの子一体何したの? 朽木隊長の妹を処刑するなんて、よっぽどのこと じゃない」 「さぁ。上の決定はボクなんかには判らへんよ」 不意に乱菊の目が細められる。真剣な表情。 そんな顔もいいね。
「ギン、あんた何企んでるの?」 いつもより数段低い声。 「なぁんも」 そう言うボクの腕を、乱菊が掴む。 「ふざけた真似してると、泣かすわよ」 キミはちっとも変わってないんやね。 初めて出逢った、あの頃のまま。 「嬉しいなぁ。泣き方、忘れてもうて困ってたんや」 あんなにも身体に染みついていた涙の味を、今のボクは忘れてしまいそうで。 誰かが思い出させてくれないかと、ずっと願ってた。 その誰かがキミならいいと、本気で思ってるんよ。
キミの瞳の奥の哀しそうな色に気付かないフリをして、ボクは笑みを深めた。
何となくギン乱。 ギンは普通に変態だよなぁ、と思います。 2004/11 |