毀れた弓
天空に穿たれた無数の穴から
神々は僕らを監視する
そんなものは恋ではない、と言ってしまいたくなる時がある。
決して叶わないが故に、安易に誰かを好きになった気分に酔い、無責任に
それに溺れる。
想いを遂げる努力もせず、いつか消える感情に身を委ねる。
自分は叶わぬ恋をしているのだ、という悲劇に浸っている少女に、言って
しまいたくなる時がある。
そんな想いは恋ではないのだ。
「尸魂界でもちゃんと、一日は一日なんだね」
呟くような井上さんの言葉に、物問いた気な視線を返すと、彼女はこちらに
向けた掌を振りながら笑ってみせた。
「や、あの。私たちの世界と同じに、日が沈んで夜になるんだなぁ、って思って」
「そうだね」
つられて僕も笑みを浮かべる。
身を潜めた小屋の窓の外には、見慣れた暗い空が広がっている。
「黒崎くん、今頃朽木さんに会ってるのかな」
闇を見上げて井上さんが言う。
「無事だと、いいんだけど」
恋に憂う少女の瞳で。
僕はその瞳を知ってる。
同じ瞳で、君を見ている少女を知ってる。
思い出すだけで、心に柔らかな針が刺さるようで。
黒崎は、井上さんの想いに気付きもしないんだろう。
井上さんは?
井上さんは、彼女の想いに気付いているのだろうか。
『あたしは、ヒメが好きなの』
叶わぬことを知りながら繰り返す彼女の言葉は、井上さんに届いているのか。
「井上さんは」
口を開いてすぐに後悔したけれど、言葉は留まらず零れ落ちる。
「井上さんは、黒崎が好きなの?」
判りきったことを訊くのは、傷付くことを求めているからなのか。
それとも―――傷付けることを?
「え!? ……うん」
照れたように、それでもきっぱりと頷く。
「好きだよ」
目の縁に朱を刷きながらも、決して視線は逸らさずに。
「石田くんだって、千鶴ちゃんのこと好きでしょ?」
無垢なる射手は、真っ直ぐに言葉の矢を返す。
少女たちの想いの強さに、言葉を失うのはいつも僕の方だ。
せめて、その想いに背を向けることだけはないように。
「そうだね……好きだよ」
僕の言葉は、彼女のものと同じ力を持っているのだろうか。
その答えに満足したかのように、井上さんが微笑う。
「いいなぁ。千鶴ちゃんは好きな人に想ってもらえて」
それは違う、と言いかけて唇を噛む。
これが。
これが答えだ。
純粋であるが故に残酷な。
本匠さん、君はどこまでも悲劇に酔うが良いよ。
そしてそれは、『彼ら』にとっても同じことなのだ。
「大丈夫だよ」
誰かを傷付けるための笑み。
誰かを嬲るための言葉。
「黒崎と朽木さんは、住む世界が違う。彼らの想いは、叶わないよ」
井上さんは一瞬哀しそうな瞳をして、幼子を諭すように僕に言った。
「石田くん……人は叶う夢だけを見るわけじゃないのよ」
一言一言を確かめながら。
「許された人だけを想うわけじゃないの。黒崎くんは―――」
言葉を切って息を吸う。
濡れた瞳を裏切るように、口元に笑みを浮かべて。
「黒崎くんは、どんな想いでも叶える人なの」
そんな黒崎くんだから、好きになったの。
切なくて、哀しくて、それでもどこか誇らし気で。
―――綺麗な人だね。
本匠さん、君の好きな女の子は、とても凛々しくて綺麗な人だね。
僕は、自らの発した言葉を恥じて目を逸らした。
窓の外の闇が、僕の醜さを覆い隠してくれればいいのに。
「朽木さんは、必ず助け出そう」
「うん」
重なる言葉が、ひどく心地好い。
もしもこの闇が、僕の我儘をもう一つだけ許してくれるなら。
「頼みが、あるんだ」
暗闇に視線を留めたまま。
「今夜だけは、本匠さんのことを考えて眠ってくれないか」
君のことを、想い続けている彼女のことを。
顔も見ずに一息で言うと、驚いた気配だけが伝わってくる。
恋する少女たちに、精一杯の贖罪を。
背中に感じる空気が揺らぐ。
「うん……うん。判った」
願わくば、その表情が笑顔であるように。
と、背後から不意に回された、細い腕。
「―――井上さん!?」
身を竦めた僕の耳許に、柔らかな声が振りかかる。
「石田くんは、優しいね」
肩に回された腕は、すぐに解かれて離れてゆく。
「千鶴ちゃんは、本当に幸せだなぁ」
振り返ることもできずに、温かな言葉の雨をその身に受けて。
本当に、幸せならいいのに。
傷付く人なんて誰もいなくて、全ての想いが届くならいいのに。
「うん―――幸せにしたいと思うよ」
呟くように言う。
彼女を幸せにできるのが、僕ならいいと願うよ。
まだ僕の力は、君には及ばないけれど。
今はまだ、叶わない想いだけれど。
それでもいつか、彼女を幸せにできるように。
窓の外で微かに光るのは、あれは星だったのだろうか。
うええぇぇえぇ(砂を吐く音)
もう二度と雨竜の一人称は書きません。ごめんなさい。
なんだこの似非ポエマーは!?
千鶴もみちるも、こんな男やめとけ。
勝手に書いといて酷い言い草ですが。
やばい、これ純粋な雨竜のファンには見せられない……。
ていうか文章破綻してますけど!?
なんかこれ、既にイチルキだか一織だか雨織だか
判らない雰囲気ですが、うちはあくまで
千雨ですから! 千鶴×雨竜ですから!!
2004/11
蛇足ながらおまけはこちら→☆
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